2026/08/28 19:14


CABTONという日本のバイク
キャブトンを作っていたのは、みづほ自動車製作所。
戦前からオートバイを製造し、戦後には350cc、500cc、600ccといった当時としてはかなり大型のオートバイを手掛けていました。

*みづほ自動車キャブトンRTS 1954 年
そのスタイルは、いわゆる「英国車的」です。
OHVエンジンに、細身のフレーム。大きなタンクに、水平に伸びる排気管。
今の目で見ると、まるで古いTriumphやBSAのような雰囲気があります。

みづほ自動車製作所 キャブトンRL 1954年
実際、キャブトンの最初期のモデルには英国Arielの影響があり、その後の車両にも英国車の技術やスタイルが色濃く取り入れられていました。
つまりキャブトンというバイクそのものが、当時の日本人が憧れた「英国の大型オートバイ」という文化の中から生まれた存在だったわけです。
そして、その車体に取り付けられていた特徴的なマフラー。それが、現在の「キャブトンマフラー」の原型になりました。
CABTONって何の意味?
ここもキャブトンの面白いところ。
「CABTON」という英語っぽい名前ですが、イギリスのメーカーではありません。
由来は、
Come And Buy To Osaka Nakagawa
という言葉の頭文字だと言われています。
販売元だった大阪の中川幸四郎商店にちなんだ名前で、
簡単に言えば、
「大阪の中川まで買いに来てね!」
というような意味。

なんとも商売人らしいネーミング!
今の感覚で言えば、かなりストレートでユニークです。(笑)
では、なぜ英国車っぽいのか?
ここが一番気になるところだと思うのですが、
「キャブトンマフラー」と聞くと、英国車のマフラーを日本でそう呼ぶようになったようにも思えます。
ところが、話は少し逆です。
当時の英国車には、キャブトンとよく似た細長い円筒形のサイレンサーがすでに存在していました。

TRIUMPH 1937 SPEED TWIN
つまり、
英国車がキャブトンマフラーを真似したわけではない。
少なくとも、そのような単純な関係を示す資料はありません。
むしろ、当時の日本のメーカーが英国車を手本にしていた。
その中で生まれた日本のキャブトンが、英国車とよく似た排気系を持っていた。
そう考える方が自然です。
Ariel Catalogue 1953 4G Mark II
「英国車風の日本車」から「キャブトン」という名前が残った
1950年代。
日本のオートバイメーカーは、まだ欧米のメーカーに追いつこうとしている時代でした。
Triumph、BSA、Norton、Ariel。
当時の英国車は、まさに大型オートバイの象徴でした。
日本のメーカーは、そうしたバイクのスタイルや機構を研究しながら、自分たちのオートバイを作っていきました。
キャブトンも、その流れの中にあります。
・
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ところが、時代が変わります。

HONDA カブに代表される、小型・軽量・安価なオートバイが急速に普及し、日本の二輪市場そのものが大きく変化していきました。
結果、キャブトンというメーカーは姿を消しました。
バイクそのものも、いつしか過去のものになっていきます。
それでも、一つだけ名前が残りました。
「キャブトン」です。
マフラーだけが生き残った
面白いのはここからです。
キャブトンというメーカーがなくなった後も、そのバイクに使われていたマフラーの形は、古いバイクを愛する人たちの間に残りました。
そしていつしか、
「この形のマフラー=キャブトン」
という呼び方が定着していきます。
現在では、実際のキャブトン製バイクに付いていたものではなくても、同じような形状のマフラーを「キャブトンマフラー」と呼びます。
「キャプトン」と書かれることもありますが、元になったブランド名はCABTON=キャブトン。
メーカーはなくなっても、名前だけがマフラーの形として生き残ったわけです。
YAMAHA SR400英国車と日本車、その間にあるもの
だから、今のキャブトンマフラーを見るとき、
「英国車っぽいマフラーだな」
と思うのも間違いではありません。
ただ、その背景にはもう一つの物語があります。
英国車に憧れた日本のオートバイメーカー。
そこから生まれたキャブトン。そして、そのキャブトンに使われていたマフラー。

YAMAHA SR500
さらに時代が進み、古い英国車や国産旧車を楽しむカスタム文化の中で、再びその形が好まれるようになる。
そう考えると、キャブトンマフラーは単なる「昔っぽいマフラー」ではありません。
英国から日本へ渡ってきたオートバイ文化が、日本のメーカーを通過して、もう一度クラシックバイクの世界へ戻ってきた。
そんなふうにも見えてきます。

なぜ、今でも格好いいのか。
キャブトンマフラーの形は、ものすごくシンプルです。
細いパイプ。
途中だけ膨らんだサイレンサー。
そして、後ろへまっすぐ伸びるエンド。
それだけ。
でも、古いバイクに付けると妙に格好いい。
おそらく、そこには「時代の匂い」があるからだと思います。
ピカピカに磨かれた最新のパーツではなく、1950年代のオートバイが持っていた、機械そのものの美しさ。
エンジンがあって、フレームがあって、そこから排気管が伸びている。
ただそれだけの構造が、そのままデザインになっている。
メーカーがなくなって何十年も経った今でも、
「キャブトン」という名前だけは、マフラーの形として残っている。
KAWASAKI W1S
そう考えると、一本のマフラーを見る目も少し変わってきます。
古いバイクにキャブトンマフラーを付ける。
それは単純に「旧車っぽくする」ということではなく、
日本のオートバイが英国車に憧れていた時代、その激動の空気を今のバイクに少しだけ残すこと。
、、、なんて。
そんな楽しみ方も、悪くないと思います。意志と気持ちの問題です(笑)

